2017年04月17日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第四回 ミーガン公女――

『キャラメる語り 第四回 ミーガン公女』

 悪人でも善人でも端役でも、「何を思い何故にそのように行動するのか」筋を通したい。それが外側から見てどれほど歪んでいても、彼女にとってはまっすぐな道。

ミーガン公女.jpg


 悪役の一人は美少女にしようと決めていました。さらさらの金髪、白磁のようになめらかな肌、底知れぬ青い瞳。名匠の手による彫像もかくやという美貌の持ち主。本人も自分が美しいと知っている。人形のように美しく、一点の曇りも無い透明な少女。

 しかしその心は冷たく空っぽ。身に着けているのは、フリルとレースをたっぷりあしらい真珠をたくさんぬい付けた青いドレス。現実の歴史では、存在しないはずのレベルの技術で作られた衣服。この辺は世界観の「ちょっとふんわり」した部分にあたります。
 なお、ミーガン公女は野望卿の最初の結婚で生まれた娘です。二度目の母親とは血のつながりはない。正式な王位継承者として認められるには、「父親もしくは母親からの地位の継承」が必要です。

 年はやっと十歳になったばかり。きっと、もっと幼い頃は自分そっくりの人形を抱いて、絹のクッションの上にちょこんと座っていたのでしょう。その人形はだれかの手作りだったのか、それとも贅を懲らして職人に作らせた高価な玩具だったのか……。

 彼女はとても聡明で、冷静で、賢い娘です。大きな鏡、曇りひとつないサファイア、ミーガン公女の周囲にある物はどこまでも透明で、冷たい。容姿の比喩も宝石、金属、陶器、水晶とことごとく無機物。
 笑ったり怒ったりすることもあるけれど、その基準は普通の人間とはちがっている。たぶん、彼女なりに感情というものを理解してはいるのでしょう。理解しているからこそ、利用することができる。しかし自分以外のだれかを思いやったり、慈しんだりすることは無い。

 容姿も性格もほぼ一発で決まり、彼女に関しては初期案から変更はありません。ララ姫とは別のベクトルで趣味の限りをつめこんだお姫様。

 何もかもさくさく決まったかと言えばさにあらず。実は名前が決まるまでに、一番難航したのがこの公女さまでした。父親と同じくドイツ語系にするか、それともララ姫やギデオンと同じく英語ベースの名前にするか。候補をいくつか選んであーでもないこーでもないと書いては消し、書いては消し。アイディア帳の公女の項目はいくつもの名前を書いて消してをくり返し、紙がすっかりよれよれになってしまいました。

 目をこらすと、どうやら一番最初に思いついたのは「フェリシア」という名前だったようです。ヒロインっぽい名前にしたかった。途中で「アンナ」「ハンナ」とドイツ方面を回り、最終的にはMeganに。
 まず英語の綴りを決めたら、次は読み。候補はミーガン、メーガン、メイガン、試しに口に出して舌の上で転がして「ミーガン」に決めた。意味は「力のある者」そして「真珠」。ここまで決まったら、自然と衣装に真珠をたくさんぬい込むことが決まりました。

 フリルとレースのたっぷりついたふわふわの青いドレスにも。小さな愛らしい靴にも真珠をたくさん、たくさんぬいつける。触れ合うと、からからと軽い音を立てる。そう、真珠は見た目の割にとても軽い宝石だから。歪んだものほど強い輝きをまとい、とても儚い。

 ミーガン公女を始め、悪役サイドのキャラクターたちは普通に『食事』をする場面がありません。人間だから食べているはずなのだけれど、見せない。意図的に書かなかったのです。対してララ姫と騎士、ドラゴンは食べています。食べるところを見せると、生活感が出る。生きている体のぬくもりや質感を感じる。
 だから、逆に生活感や体温を感じさせたくないキャラクターは、食事する場面を書かない。これはずっと昔、池波正太郎先生の時代小説で学んだこと。

 あえて公女さまが何を食べているのか考えると……多分、スミレの花の砂糖漬けとか、花の蜜とか、そんなものを食べているのかも知れません。きっと、眉ひとつ動かさずに。

 (第四回/了)


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posted by 白好出版 at 17:32| おとぎの森の幼女姫

2017年04月15日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第三回 野望卿ジークフリート――

『キャラメる語り 第三回 野望卿ジークフリート』

 キャラメる語り三回めは、野望卿ジークフリート。
 読者さんからは親しみをこめて「ジーク」とか「幼女と結婚したいヒゲの人」と呼ばれている、ダンディでノーブルなおじさんです。年齢は四十代、一度めの結婚で貴族になって、二度めの結婚で王族の地位を得て、三度目の結婚で王になろうとたくらむ男。そして一人の娘の父親。悪役ですが、あえて英雄と同じ名前をつけてみた。

ジークフリート卿.jpg


 基本コンセプトはわかりやすい悪役(ヴィラン)。
 時代劇の悪代官よろしく自分の欲望に忠実、まっしぐら。生娘でコマ回しこそやりませんが、とにかくやりたい放題好き放題。徹頭徹尾下衆の限りを尽くし、「わーるいやっちゃなー」と言われ続け、退場に際しては爽快感をふりまくのが役目。ことあるごとに「ララ・リリア姫と結婚するのだ!」と叫ぶ。
 そして小物。ひたすら小物。権力を手にしても、国と民とを統治することはできない。そもそも国を治めるつもりがない!

 王位継承者の幼い姫と結婚し、王位を継ごうと企てるのは王族としては有り。と、言うか割と普通です。しかし、さすがに庶民の感覚からしてみれば齢七歳の女の子と結婚しようと血眼になって探し回るのは……『筋金入りのど変態』呼ばわりされるのもやむなし。

「俺は王になる! →祝福された王族以外は王位につけない → よし、国王夫妻を暗殺して幼女姫と結婚だ!」
 いったい何だって彼はこんなに回りくどいことをしたのか?

 野望卿が二度目の婚姻によって王族の一員となった時、国王ご夫妻にはまだお世継ぎとなる子供がいませんでした。いちばん近い身内は『王の従妹』、その夫である野望卿は王位に比較的近い位置にいたのです……ララ・リリア姫が生まれるまでは。姫の誕生によって全てが変わり、彼は妻を暗殺して反乱の計画を立て始めたのです。そして物語の始まる直前に実行に移した。

 彼のやりたいことは終始一貫、はっきり決まっています。決してブレません。むしろそれ以外は何もしない。そして野望を遂げるために行動した結果、何が起きようがお構いなし。故に彼の行動は『暴政』となる。

 ブレないのもそのはず、キャラクターとしての野望卿は『姫を狙う』ために作られたのですから。

 亡国の姫が、騎士とドラゴンに守られる話を書きたかった。では、何から姫を守るのか。姫を捕えようとする存在が必要だ。ではその理由は? 動機は? こうして「幼女姫と結婚するのだ!」と連呼する反逆の貴族が誕生しました。

 政治的に正しい判断とは言え、目をぎらつかせ、親子ほど年の離れた幼い姫と結婚したがる男。なまじ命を狙う敵よりたちが悪い。おじさん騎士もドラゴンも、叫びたくもなろうってもんです。
「ウチの姫に近づくな!」と。

 実は、ジークフリート卿には苗字がありません。他の登場人物もまた然り。ララ・リリアは一続きの名前、ギデオンの「ソーン」は「茨」、つまりあだ名。スパイク・スケイルは前回お話ししたように「尖った鱗」の意。いずれも苗字ではありません。白雪姫やいばら姫、赤ずきん、カエルの王様が苗字を持たないように。

 実は、その2。性格、行動、口調、動機、そして名前。全て決まっていたのにこのお人、最後の最後まで詳しい容姿が決まっていませんでした。そう、目つきや言動はことごとく詳しく描写していたのに……。何しろ、挿絵の打ち合わせの段階で初めて気づいたくらいでして。
「野望卿の容姿ってどんなのですか」
「えーっと…………ヒゲです」
「ヒゲ」
 しまった、これじゃヒゲのおじさん二人で区別がつかない! 急いでこう付け加えました。
「野望卿は整ったヒゲで、おじさん騎士はぼっさぼさの無精ヒゲです」
 結果はご覧の通り。

 実際の打ち合わせメールには、さらにアメコミのキャラクターにたとえたとてもとても具体的な記述が続いておりまして。キャラクターのラフ画が公開された時、一発で見抜いた方もいらっしゃいました。さすが。


(第三回/了)

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posted by 白好出版 at 17:05| おとぎの森の幼女姫

2017年04月13日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第二回 スパイク・スケイル――

『キャラメる語り 第二回 スパイク・スケイル』


 
 キャラメる語り、第二回は知性派ドラゴン、スパイク・スケイルです。

スパイク1.jpg


 名前の由来は「とがった鱗」から。体の中に原初の火が燃える、炎の息を吐くドラゴン。しかし容姿や能力とは裏腹に、その内面は知的な紳士。
 鱗の色はルビーのような赤。何故赤いのか?
 冷静な知性派なんだから、青でもいいじゃないか?


 はい、ここにも理由とこだわりがあります。ダンジョンズ&ドラゴンズというTRPGをご存知でしょうか?
 あのゲームの箱絵があまりに強烈だったのです。丸い盾と剣をかまえた戦士に向かって、がーっと口を開けて吼える赤いドラゴンの姿が、竜の原型として記憶に焼きついていたのです。



 スパイク・スケイルのキャラクターを造形してゆくのは、そのままこの本の世界での『ドラゴン』という種族の設定を決めることでもありました。ファンタジーの中で最も有名な生き物だから、既存の情報の中に使える要素はいくらでもあります。その中で何を選んで、何を使うか、範囲を絞る……若干ふわん、とした部分を残しつつ。


 まず、種族としての立ち位置。善か悪か二つにさっくり割り切るのは避ける。

 全てのドラゴンが敵対的とは限らない。好意的とも限らない。いい人間と悪い人間がいるように、いいドラゴンもいれば悪いドラゴンもいる。けんかっ早いのもいれば、頭がいい個体もいる。ただし、どんなドラゴンでも、騎士とは天敵同士。出会ったら戦わずにはいられない。それがおとぎ話の掟だから。


 体内に炎を宿し、体温が高い。警戒すると体を赤い光が走り、鱗が尖る。動物の毛が逆立つのと同じように。これは当初は無かった設定でした。尖ったまんまだったのです。でも鱗が尖っていたら姫のやわらかなお肌に傷がついてしまう。だきついたり、すりよったりできない。そこで「攻撃態勢になった時に鱗が尖る。普段は丸くてすべすべ」という設定ができました。


 人間と共同生活を送るのが前提だから、あまりサイズは大きくしない。

 片目をすがめて鼻からふーっとため息。瞳孔が縦に狭くなる。逆に広がる。顔をそらせて見おろす。表情は、飼っている猫をモデルにしています。



 ここまで固まってくると、自然と雨の森の出会いが浮かんできました。暗い森の中、降り注ぐ冷たい雨がドラゴンの体に触れて白い蒸気に変わる。剣に手をかける騎士。けれど姫が最初に感じるのは、きっとあたたかさ。


 何故、彼が姫に優しいのかはちゃんと理由があります。ドラゴンにも経験と、流儀と信念があり、それに基づいて動くのです。本来は敵対している騎士とも、必要とあれば手を組める冷静さがある。故に血気盛んな若い時代は過ぎた、中年にさしかかった年齢として設定しました。そう、ドラゴンもまた『おじさん』なのです。


 口調はあくまで礼儀正しく、丁寧に。姫に対しては優しく、騎士に対しては若干辛辣。対等の立場でケンカしながら、共通の目的のために協力するバディ。ドラゴンと人間の関係で、やってみたかった間柄でした。



 知性派ドラゴンの発想源を探ってゆくと、まず浮かぶのが映画「ドラゴン・ハート」のショーン・コネリーが声を演じた老ドラゴン。さらにもう一歩奥に進むと、ディーン・R・クーンツのSF小説「ビーストチャイルド」に行き着きます。(現在は残念なことに絶版)

 表紙が印象的だったのです。爬虫類型エイリアンと少年が寄り添って二人で雪山を歩いている。実際の小説の中ではもっといろいろ込み入った事情があるのですが、ドラゴン(っぽい生き物)が幼い子供を守るイメージはここから湧きました。



 余談。

 先日、20年使い続けたアイロンが壊れて電源が入らなくなりまして、新しいのを購入しました。スチーム噴射機能もついた、赤いアイロンです。



(第二回/了)


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posted by 白好出版 at 18:00| おとぎの森の幼女姫