2017年04月15日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第三回 野望卿ジークフリート――

『キャラメる語り 第三回 野望卿ジークフリート』

 キャラメる語り三回めは、野望卿ジークフリート。
 読者さんからは親しみをこめて「ジーク」とか「幼女と結婚したいヒゲの人」と呼ばれている、ダンディでノーブルなおじさんです。年齢は四十代、一度めの結婚で貴族になって、二度めの結婚で王族の地位を得て、三度目の結婚で王になろうとたくらむ男。そして一人の娘の父親。悪役ですが、あえて英雄と同じ名前をつけてみた。

ジークフリート卿.jpg


 基本コンセプトはわかりやすい悪役(ヴィラン)。
 時代劇の悪代官よろしく自分の欲望に忠実、まっしぐら。生娘でコマ回しこそやりませんが、とにかくやりたい放題好き放題。徹頭徹尾下衆の限りを尽くし、「わーるいやっちゃなー」と言われ続け、退場に際しては爽快感をふりまくのが役目。ことあるごとに「ララ・リリア姫と結婚するのだ!」と叫ぶ。
 そして小物。ひたすら小物。権力を手にしても、国と民とを統治することはできない。そもそも国を治めるつもりがない!

 王位継承者の幼い姫と結婚し、王位を継ごうと企てるのは王族としては有り。と、言うか割と普通です。しかし、さすがに庶民の感覚からしてみれば齢七歳の女の子と結婚しようと血眼になって探し回るのは……『筋金入りのど変態』呼ばわりされるのもやむなし。

「俺は王になる! →祝福された王族以外は王位につけない → よし、国王夫妻を暗殺して幼女姫と結婚だ!」
 いったい何だって彼はこんなに回りくどいことをしたのか?

 野望卿が二度目の婚姻によって王族の一員となった時、国王ご夫妻にはまだお世継ぎとなる子供がいませんでした。いちばん近い身内は『王の従妹』、その夫である野望卿は王位に比較的近い位置にいたのです……ララ・リリア姫が生まれるまでは。姫の誕生によって全てが変わり、彼は妻を暗殺して反乱の計画を立て始めたのです。そして物語の始まる直前に実行に移した。

 彼のやりたいことは終始一貫、はっきり決まっています。決してブレません。むしろそれ以外は何もしない。そして野望を遂げるために行動した結果、何が起きようがお構いなし。故に彼の行動は『暴政』となる。

 ブレないのもそのはず、キャラクターとしての野望卿は『姫を狙う』ために作られたのですから。

 亡国の姫が、騎士とドラゴンに守られる話を書きたかった。では、何から姫を守るのか。姫を捕えようとする存在が必要だ。ではその理由は? 動機は? こうして「幼女姫と結婚するのだ!」と連呼する反逆の貴族が誕生しました。

 政治的に正しい判断とは言え、目をぎらつかせ、親子ほど年の離れた幼い姫と結婚したがる男。なまじ命を狙う敵よりたちが悪い。おじさん騎士もドラゴンも、叫びたくもなろうってもんです。
「ウチの姫に近づくな!」と。

 実は、ジークフリート卿には苗字がありません。他の登場人物もまた然り。ララ・リリアは一続きの名前、ギデオンの「ソーン」は「茨」、つまりあだ名。スパイク・スケイルは前回お話ししたように「尖った鱗」の意。いずれも苗字ではありません。白雪姫やいばら姫、赤ずきん、カエルの王様が苗字を持たないように。

 実は、その2。性格、行動、口調、動機、そして名前。全て決まっていたのにこのお人、最後の最後まで詳しい容姿が決まっていませんでした。そう、目つきや言動はことごとく詳しく描写していたのに……。何しろ、挿絵の打ち合わせの段階で初めて気づいたくらいでして。
「野望卿の容姿ってどんなのですか」
「えーっと…………ヒゲです」
「ヒゲ」
 しまった、これじゃヒゲのおじさん二人で区別がつかない! 急いでこう付け加えました。
「野望卿は整ったヒゲで、おじさん騎士はぼっさぼさの無精ヒゲです」
 結果はご覧の通り。

 実際の打ち合わせメールには、さらにアメコミのキャラクターにたとえたとてもとても具体的な記述が続いておりまして。キャラクターのラフ画が公開された時、一発で見抜いた方もいらっしゃいました。さすが。


(第三回/了)

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posted by 白好出版 at 17:05| おとぎの森の幼女姫

2017年04月13日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第二回 スパイク・スケイル――

『キャラメる語り 第二回 スパイク・スケイル』


 
 キャラメる語り、第二回は知性派ドラゴン、スパイク・スケイルです。

スパイク1.jpg


 名前の由来は「とがった鱗」から。体の中に原初の火が燃える、炎の息を吐くドラゴン。しかし容姿や能力とは裏腹に、その内面は知的な紳士。
 鱗の色はルビーのような赤。何故赤いのか?
 冷静な知性派なんだから、青でもいいじゃないか?


 はい、ここにも理由とこだわりがあります。ダンジョンズ&ドラゴンズというTRPGをご存知でしょうか?
 あのゲームの箱絵があまりに強烈だったのです。丸い盾と剣をかまえた戦士に向かって、がーっと口を開けて吼える赤いドラゴンの姿が、竜の原型として記憶に焼きついていたのです。



 スパイク・スケイルのキャラクターを造形してゆくのは、そのままこの本の世界での『ドラゴン』という種族の設定を決めることでもありました。ファンタジーの中で最も有名な生き物だから、既存の情報の中に使える要素はいくらでもあります。その中で何を選んで、何を使うか、範囲を絞る……若干ふわん、とした部分を残しつつ。


 まず、種族としての立ち位置。善か悪か二つにさっくり割り切るのは避ける。

 全てのドラゴンが敵対的とは限らない。好意的とも限らない。いい人間と悪い人間がいるように、いいドラゴンもいれば悪いドラゴンもいる。けんかっ早いのもいれば、頭がいい個体もいる。ただし、どんなドラゴンでも、騎士とは天敵同士。出会ったら戦わずにはいられない。それがおとぎ話の掟だから。


 体内に炎を宿し、体温が高い。警戒すると体を赤い光が走り、鱗が尖る。動物の毛が逆立つのと同じように。これは当初は無かった設定でした。尖ったまんまだったのです。でも鱗が尖っていたら姫のやわらかなお肌に傷がついてしまう。だきついたり、すりよったりできない。そこで「攻撃態勢になった時に鱗が尖る。普段は丸くてすべすべ」という設定ができました。


 人間と共同生活を送るのが前提だから、あまりサイズは大きくしない。

 片目をすがめて鼻からふーっとため息。瞳孔が縦に狭くなる。逆に広がる。顔をそらせて見おろす。表情は、飼っている猫をモデルにしています。



 ここまで固まってくると、自然と雨の森の出会いが浮かんできました。暗い森の中、降り注ぐ冷たい雨がドラゴンの体に触れて白い蒸気に変わる。剣に手をかける騎士。けれど姫が最初に感じるのは、きっとあたたかさ。


 何故、彼が姫に優しいのかはちゃんと理由があります。ドラゴンにも経験と、流儀と信念があり、それに基づいて動くのです。本来は敵対している騎士とも、必要とあれば手を組める冷静さがある。故に血気盛んな若い時代は過ぎた、中年にさしかかった年齢として設定しました。そう、ドラゴンもまた『おじさん』なのです。


 口調はあくまで礼儀正しく、丁寧に。姫に対しては優しく、騎士に対しては若干辛辣。対等の立場でケンカしながら、共通の目的のために協力するバディ。ドラゴンと人間の関係で、やってみたかった間柄でした。



 知性派ドラゴンの発想源を探ってゆくと、まず浮かぶのが映画「ドラゴン・ハート」のショーン・コネリーが声を演じた老ドラゴン。さらにもう一歩奥に進むと、ディーン・R・クーンツのSF小説「ビーストチャイルド」に行き着きます。(現在は残念なことに絶版)

 表紙が印象的だったのです。爬虫類型エイリアンと少年が寄り添って二人で雪山を歩いている。実際の小説の中ではもっといろいろ込み入った事情があるのですが、ドラゴン(っぽい生き物)が幼い子供を守るイメージはここから湧きました。



 余談。

 先日、20年使い続けたアイロンが壊れて電源が入らなくなりまして、新しいのを購入しました。スチーム噴射機能もついた、赤いアイロンです。



(第二回/了)


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posted by 白好出版 at 18:00| おとぎの森の幼女姫

2017年04月11日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第一回 ララ・リリア姫――

『キャラメる語り 第一回 ララ・リリア姫』



 キャラメルじゃなくてキャラメる。「キャラメする」を縮めてキャラメる。

 キャラメ、とはキャラクターメイキングの略、TRPG等で自分の分身であるキャラクターを作ること。転じて「おとぎの森の幼女姫」に登場するキャラクター達がどうやって生まれたか、どんな経過で今の形になったかなど、つれづれとお話ししてゆこうと思います。しばしおつきあいください。


 第一回めは本作のヒロイン、幼女姫ララ・リリア。読者さんからは「たくましい!」「かわいい」とご好評いただいております。

 ストーリーを引っ張る原動力、騎士とドラゴンが行動する『動機』、そして最初の語り手でもあります。
ララ姫1.jpg


 アイディア帳を紐解いてみると年齢設定は最初は八歳でした。しかも『おでこの広い黒髪おさげの滅多に笑わない女の子』。

 だれだこれ?
 話を練ってゆく過程で七歳に、さらに六歳にと幼くなって、姿と性格もだいぶ変わりました。それでも意志の強さは一貫して変わらない。


 名前はとにかく言いやすいように。ラ行の音を並べて実際に舌の上で転がして、一番しっくりきたのを選びました。音の最後がア行の音で終わって『開く』感じにしたかった。


 いきなり最初の一行で国が滅びて雨の中を逃亡、さらにドラゴンとおっさん騎士と森で暮らす。ハードな運命が待ち受けています。だから、たくましく生きのびてほしい。飛んで、走って、足を踏ん張って駆け抜けてほしい。だからひたすら元気で前向きな性格に。やんちゃなくらいでちょうどいい。喜怒哀楽もはっきりと、表情豊かに。ここはもう一人のお姫様、ミーガン公女との差別化をはかるためでもありました。


 次に弱点を考えます。

 まず、体が小さい。力が弱い。両親が恋しい。失われた『日常』が恋しい。知識も限られている。最初はお城育ちだからなおさらに、屋外で暮らした経験が無い。

 そして子供です。幼女です。周りが大人ばかりの環境で育って、王女としての教育を受けた。だから姫君として振る舞うことはできる。

 でも幼女。


 だから一人で考えるときは、子供として考える。そこで姫視点のパートでは漢字と難しい言葉をざっくり減らしました。ここはもう、校正の手間がかかるのを承知でこだわった。気づいていただけた時はとてもうれしかった。


 幼いと言うことは弱点でもあり、同時に利点でもあります。

 幼い子供は成長する。作中、時間の経過とともに姫は変わります。冒頭ではできなかったことが、物語の後半ではできるようになる。それは、おじさん騎士とドラゴンから学んだ結果なのです。



 中味と名前が決まったら、今度は容姿。

 おとぎ話の世界、架空の国ではありますが、ヨーロッパのどの辺の地域をモデルにするかは決めておこうと思いました。

 なじみがあって、土地勘のある所にしよう。そんなわけで、リヴァーフィートのモデルは北欧、それも主にデンマークに決定。かの国には八ヶ月ばかり住んでいたことがありまして、気候や地形、木の大きさや土のにおい、風の肌触りを知っていたのです。元になる経験があるから、描写もしやすい。


 地域が決まればそこに住む人種も見えてくる。「ゆるく波打つ赤い髪、陽に透ける若葉の瞳」はそこから決まりました。あと、そばかす。これはもう、完全に、趣味! 好きなんです、そばかす。


 今野先生のイラストにはきっちりそばかすが描きこまれていて、しかも八重歯まできらっと光っていてよろこびのあまりもだえました。

 もう、この一言につきます。

 姫可愛いよ姫。



 余談。

 縦横無尽に走り回り、飛びつき、好奇心に目を輝かせる姫。あれだけ飛んだり走ったりしておいて、スカートの裾はどうなんだろう……自分でもちょっと気になっていたのですが、そこもイラストできれいに解決されていました。これならおじ様ドラゴンも安心。



(第一回/了)


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posted by 白好出版 at 18:00| おとぎの森の幼女姫