2017年04月21日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第六回 騎士ギデオン・ソーン――

『キャラメる語り 第六回 騎士ギデオン・ソーン』

 名も知らぬ花を踏みつけられない男。泥の中でしぶとく、あきらめずにあがく中年騎士。

 六回に渡りお送りしてきたキャラメる語り、トリをつとめるのはおっさん騎士ギデオンです。
 通称『茨のギデオン』。触れるものを全て切り裂く尖った男。騎士でありながらその言動はざっくばらんで型破り、故に市井にまじるのも容易。

ギデオン1.jpg


 彼が最初に登場する場面は姫の視点で書かれています。だから第一印象は「鋼色の目のぶっきらぼうでこわいおじさん」。物語が進むにつれて鋼は水に変わってゆく。こわいだけじゃない、どこか可愛いところもあるおじさんに。そして絶対の信頼をよせる「私の騎士へ。
 作中に流れるギデオンの変化は、そのまま姫の感じる彼の変化と重なっているのです。

 白髪交じりのぼっさぼさの黒髪、伸ばしただけの無精ヒゲ、目元には深い皺が刻まれ、着ているものは黒ずくめでおよそ色彩というものが無い。そしてすごく、目つきが悪い。年齢、容貌、性格、どこをどう見ても脇役(バイプレイヤー)。姫君の最後の騎士として主役を張るのに似合うのは、どちらかと言うとロブ団長です。あるいは美少女。

 本来なら「ここは俺に任せて先に行け!」と言い残して敵につっこんでくタイプが生き残ったらどうなる? その発想で作ったキャラクターです。そして、一番、私自身の『素』に近い人物でもあります。TRPGで同卓したことのある方は「あ、いつもの十海のおっさんだ」と思うぐらいにシンクロしているんじゃあないかな? ロストロイヤルで騎士を作るとしたら、きっとこうなる。種族は人間で、大事な武具は盾。

 不惑と言うくらいですから、四十歳になったら大人になると思っていた。でも実際になってみたらそうでもなかった。やっぱり自分は未完成で、未熟で、がまんできずに突っ走ったり無茶をする。一方で体は着実に若い時より衰える。筋肉痛も二日後に来る。そこを踏まえた上でのおじさん。背伸びもせず、大人ぶることもせず、年よりくさく自虐に走ることもない等身大。今の自分だからこそ書けた「おっさん像」です。

 ぶっきらぼうで無愛想、挿絵でも表紙でも笑わず、しかめっ面でいつも眉間に縦じわを寄せている。歯をくいしばっているか、叫んでいる。(あの表情、すごく、素敵です。目元の皺の深さにしびれる)しぶとく、あきらめずに足掻く泥臭い男。

基本コンセプトは『強化服を着ていないヒーロー』。原型は映画「ニューヨーク1997」に登場した片目のアウトロー、スネーク・プリスキン。演じるはカート・ラッセル。プラス、映画「ドラゴン・ハート」に登場した、デニス・クエイド演じる騎士ボウエン。紫堂恭子さんの漫画「辺境警備」の隊長さんの要素も入ってるかな? 女好きではないけれど。不良中年と言い切るには、ちょっと真面目すぎる。

 一方、ロブ団長のモデルは映画「レディ・ホーク」の騎士ナバール。演じるのはルトガー・ハウアー。こちらも実用本位の黒い服を着てでっかい剣をぶん回す騎士です。内面は星のついた盾を投げるあのアメコミヒーロー。ギデオンとロブ団長は表裏一体、二人一組でキャラを肉づけしました。

 ギデオンの言葉の端々からわかるように、このおじさん、ほとんどお城にいませんでした。外で戦っている方が多かった。おそらく土木工事や土地の開墾、農作業なんかもやっています。だから姫とはあまり面識がない。初めて二人きりになって、戸惑う戸惑う。そもそも子供の扱いに慣れていない、むしろ苦手。それでも終始一貫、姫を命がけで守る。過剰に甘やかしたり、ご機嫌をとったりはしない。

 果たしてこんな人を、ファンタジー小説の主役に据えていいものかと迷いました。市場のニーズにこたえるなら姫騎士とか、少年騎士とか、美青年だよな、と。百歩ゆずって紳士なおじ様。幸い、『紳士』はドラゴンが担当してる。だから安心して、騎士は好き放題に作りました。

 どれほど型破りでも、ギデオンは主人公としての道は外しません。彼はいつだって、自分以外のだれかの為に戦う。それは少年漫画的な王道。かっこはつけないけど意地は張る。斜にかまえているようで、実際は一途で、真面目で、直情型なのです。

 余談。
 表紙にも描かれた「雨の滴る黒い森」。この場面に出て来るクロイチゴ、実際の種類はビルベリーなのです。しかしどうしてもこの果実の名前を聞くと健康サプリのイメージが浮かぶので「クロイチゴ」と表記しました。

 さて六回にわたるキャラメる語り、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。語りたくてうずうずしていた作者の煩悩をこのような形で昇華する機会をいただき、白好出版さんには改めて感謝いたします。

 願わくば、再びどこかでお会いできますように。
 時野つばきでした。

(第六回/了)

第五回(魔女イーニス・モゥ)はこちらから

第四回(ミーガン公女)はこちらから

第三回(野望卿ジークフリート)はこちらから

第二回(スパイク・スケイル)はこちらから

第一回(ララ・リリア姫)はこちらから

発売記念おまけSSはこちらから

試し読みはこちらから

Amazonでのお買い求めはこちらから

posted by 白好出版 at 18:00| おとぎの森の幼女姫

2017年04月19日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第五回 魔女イーニス・モゥ――

『キャラメる語り 第五回 魔女イーニス・モゥ』

 女の子の涙には意味がある。それが何色だとしても。

 褐色の肌に銀色の髪、魅惑的な曲線を描く豊満な肢体。異国で生まれ、異国の響きの名を持つ魔女イーニス・モゥは、悪役ながら読者さんから人気があります。さんご色の唇で艶然とほほえみ、おっさん騎士と紳士なドラゴンを翻弄する悪女。言うなれば不○子ちゃんポジション。実は彼女は編集さんからの提案で出番が増えました。増やしてよかったと思います。

イーニス.jpg


 幼女づくしで物理的に平坦だった場面が、ぐっと盛り上がりました。華が出た。のみならず魔女が何故そう考えて、そのように動いたのか思考の流れをよりはっきりと書き出すことができた。陰を濃く入れることで、明るい部分が際立った。

 彼女は報酬をもらって仕事を請け負うプロフェッショナルの『悪人』です。
 公女とはまた別の意味で謎めいている。騎士と敵対するのは、野望卿に雇われているから。割り切った関係で、求められた仕事をこなし自分の仕事の報酬はきっちり要求する。頭が切れて、思考の切り替えが早い。ヴィランという呼び名がよく似合う。闇の力を駆使する魔女ですが、善悪の概念は知っています。ただそれよりも自分の利益と意志を優先しているだけ。

『かわいそうな子なんだから許してあげて?』そんな論法は、ふんっと優雅に鼻先で笑い飛ばす強気なお姉さん。

 何故かギデオンに興味を持ち、自らの魅力をあますことなく駆使してぐいぐい迫ります。だけどおじさんは姫優先。「やー、おじさん今いそがしいから」「あと十年若ければ」終始こんな感じで素っ気ないのですが、後半に行くにつれてほんのすこーしずつ、軟化しています。細かい所まで読まないと、気づかないくらいのゆれ幅で。

 時にあどけなく、時にあだっぽく。おじさん騎士に迫る彼女は果たして見かけ通りの年齢なのか。そもそも何者なのか? どちらも決まっています。物語を読み進める中で明らかになります。

 外見と性格は一発でさくっと決まった。衣装は「体にぴったりはりついて、半ば透けたクモの巣状の黒いドレス」。これが今野先生のイラストではさらにセクシー度がアップ! 大胆に肩や胸元、背中がぐりっと開いていて、美しいボディラインが映えること映えること。しかも襟元やすそのなびき方がいかにも「悪い魔女!」といった空気をかもしだしていて、感嘆のため息がこぼれました。特に口絵の振り返る立ち姿が素晴らしい。

 そんな色っぽい魔女さんが駆使するのは、巨大なクモの使い魔。挿絵にも登場していますが、これが実に迫力がある。
『明らかにこの巨大なクモは友好的ではない。さあ、武器を構えて次のページに進みたまえ!』そんなゲームブック風の文章が浮かんでくる。ダイスを握りしめたくなる。怪物が自分に迫ってくる臨場感と圧力を感じました。こわい、そしてやばい。かっこいい。

 魔女自身もクモの糸を操ります。自由自在に、それこそアメコミのヒーローのように。この銀色のクモの糸は変化自在でいくつもの用途に使われます。人を縛ることもできる、自分自身を支えることもできる。何かを編むこともできる……形のあるものからないものまで。

 魔力の糸(スレッド)を「編んで」「投てきする」という概念はTRPGアースドーン(これも日本語版は絶版)からも影響を受けています。そしてクモの糸には、想像力をかきたてる魔力があります。この応用力の高さは、フィリス・アイゼンシュタインの小説「妖魔の騎士」に登場する織姫デリヴェヴに由来します。(これも絶版……名作なのに)ただし、こちらに登場する使い魔のクモは小さい。そしていっぱいいる。

(第五回/了)

第四回(ミーガン公女)はこちらから

第三回(野望卿ジークフリート)はこちらから

第二回(スパイク・スケイル)はこちらから

第一回(ララ・リリア姫)はこちらから

発売記念おまけSSはこちらから

試し読みはこちらから

Amazonでのお買い求めはこちらから

posted by 白好出版 at 18:00| おとぎの森の幼女姫

2017年04月17日

『おとぎの森の幼女姫』――キャラメる語り 第四回 ミーガン公女――

『キャラメる語り 第四回 ミーガン公女』

 悪人でも善人でも端役でも、「何を思い何故にそのように行動するのか」筋を通したい。それが外側から見てどれほど歪んでいても、彼女にとってはまっすぐな道。

ミーガン公女.jpg


 悪役の一人は美少女にしようと決めていました。さらさらの金髪、白磁のようになめらかな肌、底知れぬ青い瞳。名匠の手による彫像もかくやという美貌の持ち主。本人も自分が美しいと知っている。人形のように美しく、一点の曇りも無い透明な少女。

 しかしその心は冷たく空っぽ。身に着けているのは、フリルとレースをたっぷりあしらい真珠をたくさんぬい付けた青いドレス。現実の歴史では、存在しないはずのレベルの技術で作られた衣服。この辺は世界観の「ちょっとふんわり」した部分にあたります。
 なお、ミーガン公女は野望卿の最初の結婚で生まれた娘です。二度目の母親とは血のつながりはない。正式な王位継承者として認められるには、「父親もしくは母親からの地位の継承」が必要です。

 年はやっと十歳になったばかり。きっと、もっと幼い頃は自分そっくりの人形を抱いて、絹のクッションの上にちょこんと座っていたのでしょう。その人形はだれかの手作りだったのか、それとも贅を懲らして職人に作らせた高価な玩具だったのか……。

 彼女はとても聡明で、冷静で、賢い娘です。大きな鏡、曇りひとつないサファイア、ミーガン公女の周囲にある物はどこまでも透明で、冷たい。容姿の比喩も宝石、金属、陶器、水晶とことごとく無機物。
 笑ったり怒ったりすることもあるけれど、その基準は普通の人間とはちがっている。たぶん、彼女なりに感情というものを理解してはいるのでしょう。理解しているからこそ、利用することができる。しかし自分以外のだれかを思いやったり、慈しんだりすることは無い。

 容姿も性格もほぼ一発で決まり、彼女に関しては初期案から変更はありません。ララ姫とは別のベクトルで趣味の限りをつめこんだお姫様。

 何もかもさくさく決まったかと言えばさにあらず。実は名前が決まるまでに、一番難航したのがこの公女さまでした。父親と同じくドイツ語系にするか、それともララ姫やギデオンと同じく英語ベースの名前にするか。候補をいくつか選んであーでもないこーでもないと書いては消し、書いては消し。アイディア帳の公女の項目はいくつもの名前を書いて消してをくり返し、紙がすっかりよれよれになってしまいました。

 目をこらすと、どうやら一番最初に思いついたのは「フェリシア」という名前だったようです。ヒロインっぽい名前にしたかった。途中で「アンナ」「ハンナ」とドイツ方面を回り、最終的にはMeganに。
 まず英語の綴りを決めたら、次は読み。候補はミーガン、メーガン、メイガン、試しに口に出して舌の上で転がして「ミーガン」に決めた。意味は「力のある者」そして「真珠」。ここまで決まったら、自然と衣装に真珠をたくさんぬい込むことが決まりました。

 フリルとレースのたっぷりついたふわふわの青いドレスにも。小さな愛らしい靴にも真珠をたくさん、たくさんぬいつける。触れ合うと、からからと軽い音を立てる。そう、真珠は見た目の割にとても軽い宝石だから。歪んだものほど強い輝きをまとい、とても儚い。

 ミーガン公女を始め、悪役サイドのキャラクターたちは普通に『食事』をする場面がありません。人間だから食べているはずなのだけれど、見せない。意図的に書かなかったのです。対してララ姫と騎士、ドラゴンは食べています。食べるところを見せると、生活感が出る。生きている体のぬくもりや質感を感じる。
 だから、逆に生活感や体温を感じさせたくないキャラクターは、食事する場面を書かない。これはずっと昔、池波正太郎先生の時代小説で学んだこと。

 あえて公女さまが何を食べているのか考えると……多分、スミレの花の砂糖漬けとか、花の蜜とか、そんなものを食べているのかも知れません。きっと、眉ひとつ動かさずに。

 (第四回/了)


第三回(野望卿ジークフリート)はこちらから

第二回(スパイク・スケイル)はこちらから

第一回(ララ・リリア姫)はこちらから

発売記念おまけSSはこちらから

試し読みはこちらから

Amazonでのお買い求めはこちらから

posted by 白好出版 at 17:32| おとぎの森の幼女姫