2016年11月18日

真夜中の本屋戦争SS『昼間は平和(?)な本屋さん』

『昼間は平和(?)な本屋さん』

 僕がそのエキナカの本屋に入ったのは、マンガを一冊買うためだった。

 駅構内という立地のためか店内はそう広くない。だが狭いとはいえ腐っても本屋、書棚は高く、びっしり詰まったマンガや文庫は家とは比べ物にならない冊数で、マンガコーナーを少しうろついただけでは目当ての本を見つけられなかった。

「どうしようかなあ、諦めて帰……あ」

 と、そこで折良く店員が僕の前を通り過ぎようとした。

「すみません、ゴールデンアイヌの新刊ってどこにあります?」
「はい」

 俺が声をかけると、女性店員がこちらを振り返った。

 この店の制服らしいブラウスとスカートの上からエプロン、髪は邪魔にならないように後ろでまとめたごくシンプルな格好だ。胸元のネームプレートには『竹河紫野』。何か作業中だったようでハードカバーを数冊抱えている。

 女性としては背が高い人で、目線がほとんど俺と同じ高さに来る。


はつばい.jpg



「あ、あの……」

 美人に微笑まれ、俺は不意打ちを食らったような気分になったのだった。

「ゴールデンアイヌの新刊ですね。こちらです、どうぞ」

 だが店員さんは俺の狼狽など気付かぬ様子でほんわか頷いてから、慣れた様子で僕を案内してくれた。
 書棚の林の中を通り抜けると一気に視界が開け、目の前にはレジ、そしてその向かいには膝ほどの高さの平台がある。

「あー、新刊ここにまとめて置いてあったのか」

 レジ前の平台には雑誌の最新号、その脇に小説やマンガの新刊も積んであった。さっきは雑誌の山に隠れていて見落としたようだ。

「はい。ごゆっくりご覧くださいませ」
「あ、ありがとうございました!」

 そして店員さんは優雅に一礼して去っていった。

 本の山から掘り起こすように目的のマンガを手に取りつつ、僕はふと隣の本にふと目をやる。
「何か面白そうなのあるかな……」

 普段あまり本を読むほうではないが、面白そうな本があれば一冊くらい一緒に買っていってもいい。……決して店員さんが美人だからではないったらない。

「『マルクス・アウレリウス・アントニヌス 自省録』……何だこの舌噛みそうな名前」

 その本が目に付いたのは、平台の中でもひときわ山が高かったからである。
 つまりあまり売れていないということだ。実際、ぺらぺらとめくってみたが、政治がどうとか人生がどうとかド難しいことしか書いていなかった。

「平台って、ベストセラーが置いてあるもんだと思ってたけど……」



『買え〜、買え〜、その本を買うのだ〜……』



 どこからともなく、変な声が聞こえた気がした。

 首だけ動かして周囲を見てみるも、平台近くにいるのは僕とOLがひとりだけだ。

「気のせいか。そもそも本ってどの本だよ」

 気を取り直して、その本を置いて隣のビジネス本も立ち読みしようとする。



『うぬぬぬ、その本を置いてはならぬ……』



「……何なんだほんと」

 そこで、レジから店員が駆け出すのが目に入った。
 さっきの美人さんではなく、身長二メートル近い大男である。美人さんにも驚いたがこちらはこちらであまり本屋らしくない。

 いったい何事かと(変な声もあったので)思ったが、店員の目当ては幸い僕ではなかったらしく平台近くでゴミでも拾うような仕草をしていた。床に何か落ちていたのだろうか。

「だから、お客さんにちょっかい出すなっていつも言ってるだろ!」

 彼が愚痴るように呟くのが耳に入ったが、その相手はやはりよくわからなかった。

 今度こそ次の本を取ろうとしたところで、僕は彼女≠ニはたと目が合った。

「ぅあ!?」
「あら」

 あの美人店員さんである。

 さっきとはまた違う本を数冊抱えて、指にはメモ用紙を挟んでいる。どうやら書棚から在庫を探し集める作業をしていたようだ。

「あら、その本……」

 店員さんは僕の手にしている本を見つめて微笑む。そうなると僕も「台に戻すところでした」とは言いづらく、

「あ、あの!」
「はい」
「この本って、どんな本ですか?」

 思わず口走ってしまったものの、どんな本も何も現物のページを開いて確認してみればいいのであり、僕の質問はアホそのものだ。

 だが尋ねた瞬間、店員さんの表情がぱっと輝いた。

「そうですね……著者のアウレリウスはローマ皇帝にして哲学者という人物で」

 店員さんは滔々と説明を始めてしまった。

 その表情は生き生きとして、本の話をするのが楽しくて仕方がないという風である。しかし美人さんを見ているのは楽しいが、僕は哲学にはあんまり興味は……

「元々は他人に読ませるためではなく、公務の合間に書き留めておいた文だそうです。ほとんどは思索や格言めいたことが書いてあるんですけど、中には愚痴も混じっていますね」
「皇帝って超ブラックぽいですしね……」
「『そこは削っておけ!』とアウレリウスは思っているかもしれませんね」

 店員さんはくすくすと笑う。

 話を聞くうち、僕にもだんだんこの本に興味が湧いてきた。

 やたら難しい文章ではあるが、二千年近くも昔、オッサン(皇帝だけど)が仕事の合間に日記にかっちょいい語句を書いているところを想像するとちょっと面白い。マンガ一冊だけ買って帰るのもつまらないし。

「あの、この本ください」

 僕がおずおずと言うと、店員さんは再びぱっと顔をほころばせたのだった。

 そのまま、さきほどと同じようにレジに案内されて(平台のすぐ側だけど)会計してもらう。本を二冊受け取るときに白い指先が一瞬だけ触れた気がしたけれども、変態と思われたくないので全力で平静を装った。

「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

 店員さんの透き通った声を聞きながら、僕が満足感に浸りつつ本屋を出ようとしたところで、



『儂よりシノの言を容れるとは……まあいい、だが愚痴のところは読むでないぞ!?』



 三度聞こえた声に、僕は足を止めて振り返り──思わず何度か瞬きした。

 さきほど自分が本を取った平台の上に、何か≠ェ載っている気がする。

 身長はせいぜい十センチかそこらだろう、フィギュアのような二・五頭身のちんちくりんの体型だ。もじゃもじゃ髭に白い布を身体に巻き付けたような服、……そういえば昔、世界史の教科書であんな『ローマ人』の肖像画を見なかったか?

「何だあれ」

 だが呟いた一瞬のうちにそのフィギュア(?)どもはふっと消えてしまっていた。平台にはもう雑誌とベストセラーしか載っておらず、側にいるのはOLだけだ。

「……まさかな」

 一瞬だけ浮かんだ考えを、僕は首を振って打ち消した。

 まさか、マルクス何とかさんの霊が自分の本を読ませようとしていた──などと。

 自分で自分に苦笑して、何やらレジの大男と話している店員さんの姿を目に焼き付けてから、僕はエキナカ書店を後にした。

                 了

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本編の試し読みはこちらから※3M弱と大きいのでご注意を

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posted by 白好出版 at 11:21| 真夜中の本屋戦争

2016年10月21日

『真夜中の本屋戦争』試し読み公開いたしました

こんにちは!

『真夜中の本屋戦争』
ですが、昨日校了もしましてあとは印刷所で本にしてくれるのを待つばかりです。
さてさてAmazonでの予約も始まっていることもあり、試し読みの方公開させていただきますね。
まずは書店さんで探しやすいように帯付きのカバーを!

真夜中の本屋戦争カバー帯付き.jpg


帯を外すとこのような絵に。

真夜中の本屋戦争カバー帯なし.jpg


また、口絵ですがこのように。

真夜中の本屋戦争口絵.jpg


とても楽しそうな雰囲気に描いていただきました! フカヒレ先生ありがとうございます!

では、お待ちかねの
試し読みはこちらから※3M弱と大きいのでご注意を

全5章中の2章までで、全体の半分という大ボリュームになります。

春の章は導入部、夏の章で「平台争奪戦」のドタバタがよくわかりますので、思い切って全体の半分まで公開させていただきました!

『真夜中の本屋戦争』という作品の雰囲気がよくわかるかと思いますので、ご購入を検討されるときに参考にしていただければ。

Amazonでのお買い求めはこちらから

それでは、11月10日発売の『真夜中の本屋戦争』をよろしくお願いいたします。


posted by 白好出版 at 17:44| 真夜中の本屋戦争

2016年10月14日

『真夜中の本屋戦争』カバー紹介とAmazon予約も始まったのね


こんにちは!

11月刊の『真夜中の本屋戦争』(著:藤春都、イラスト:フカヒレ)ですが、カバーの方がデザインもできましたので、公開させていただきますね!


honya_amazon.jpg



小人みたいなヘンな連中がいっぱいいて楽しそうなカバーになりました!
そして、フカヒレ先生の描いたヒロイン・竹河紫野(たけかわ・しの)がもう可愛いです!

デザインはいつもの木村デザイン・ラボさん!

そして、今日からAmazonさんでも予約がはじまりました!

Amazonでの予約はこちらから

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

posted by 白好出版 at 17:47| 真夜中の本屋戦争